マリアの心臓
「おっ。鈴夏、来た」
羽乃の声で、気がついた。
倉庫の入口から出てくるやいなや、敵をなぎ倒す鈴夏に。
「……なんか鈴夏も殺気やばくね?」
「様子がおかしいな」
想定外の一大事、かと思ったが、そういうわけでもなさそうだ。
人質に害があったとすれば、あの程度で済んでいないだろう。
今の鈴夏は、どこかうわの空だ。
「鈴夏、何かあったのか」
たまらず呼びかければ、鈴夏は曖昧に口を開く。
「あー……衛、羽乃……。何かっていうか……別に……」
「ふたりは無事だったんだろ?」
「うん、そこは問題ない……けど……うーん……」
「どうした」
「……あのさ、衛、」
「何だ」
「…………いや、やっぱ、あとででいいや」
煮え切らないまま、強引に会話を中断させられた。
変なヤツ、と不審がっていた羽乃は、すでに関心をなくし、敵の群れへ突っ込んでいった。
話なんかいつだってできる。
まずは敵の殲滅が最優先だ。
早く……一刻も早く、見るも無残なこの状況を終わらせてしまいたかった。
「鈴子を利用したコソ泥っつうのは、おまえらのこと?」
「ひ、ひぃ……! ち、ちが、あっちが最初に……!」
「後だろうが先だろうが関係ねえよ!」
「ボクらを敵に回す覚悟は、できてるんだよね?」
「殺っちまえ、鈴夏」
オレらとの差にすっかり戦意喪失した主犯の男に、選択の余地はない。
ぐしゃり。
問答無用に、渾身の力で天罰を下した。
骨が粉々に折れる濁音。
人間のものとは思えない喚き声。
とうに慣れたその不協和音が、分厚いコンクリートに阻まれたらいい。
そう願うことすら、縋ることになるのだろうか。