マリアの心臓
下っ端の協力もあり、雑魚どもはいともたやすく瞬殺できた。
オレらで後始末している間に、鈴夏は倉庫のほうへ迎えに出向く。
「鈴夏さん! おかえり!」
喜色にあふれたソプラノが、外にまで満ちていく。
中学生のガキは怖がっていると思ったが、杞憂だったか。
出入口のあたりをオレと羽乃で固め、敵を寄せ付けないようにしたのが功を奏した。
……あいつも、無事だろうか。
鈴夏は家族のことになると、他をおろそかにするところがあるからな。
元気だと確信できないと安心できない。
しかし、いくら待てども、もうひとりの「おかえり」は聞こえてこなかった。
代わりに響いたのは、
「ま、まりあさん……? まりあさん!」
「優木……なんで……っ、優木!」
不穏な、絶叫だった。
本能的に足が倉庫の中へ向いていた。
ビリッ、と心臓が痙攣する。
目の当たりにしたのは、薄汚い地面に倒れこむ、あいつ――まりあの姿だった。
「どうして急に優木が倒れて……っ、まさか、知らないうちに敵がこっちにも来て……?」
「ううん、こっちにはひとりも……。まりあさん、ずっとわたしを元気づけてくれてたし……」
「なら、どうして……」
自分の表情が、険しく歪んでいくのがわかる。
それは怒りなのか、後悔なのか。
はたまた、これも、願いだったのか、縋っていたのか。
「健康になったからって、体力は変わらねえってのに……無茶しやがって」