マリアの心臓
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悪天候に見舞われた。
ひどい雨だった。
まりあを無事に家まで送り届け、バイクを降りた。
町外れにある、巨大な倉庫。
人っ子一人通らない廃れた辺りに、存在感を際立たせるその建物は、異様におどろおどろしい雰囲気をまとっている。
そこに近づけるのは、神亀の人間のみ。
そう、そこは、神亀のたまり場。
びしょ濡れの体で、入口をくぐった。
外面とは異なり、中は隅々までぜいたくに改造されている。
下っ端の挨拶に応えながら、奥へ進んで行く。
一番奥にある重厚な扉に隔たれたその部屋は、幹部クラスしか入れない。
だからか、ひと際手が込んでいて、まるでクラブのVIPルームのように施されている。
「なあ、聞いてねえぞ!」
通称幹部室に入ると、羽乃が待ちかまえていた。
……なぜか、涙目になって。
「なに泣いてんだ」
「べ、別に! 泣いてねえし! 優木の体のこと気にしてるわけじゃ……!」
空回りした言動をとりつつも、タオルを投げ渡してくれる。
有難く受け取り、髪の水分をとりながら、オレはソファに深く腰掛けた。
逆に水分をためていく茶色い右目が、責めるように吊り上がる。
「なんで……言わなかったんだよ」
「…………言えなかったんだ」
言霊っつうもんもあるくらいだ。
口に出したら、この世の不幸があいつの身に降ってきてしまいそうで。
怖かったんだ。
退院した今だから、打ち明けられた。