マリアの心臓
「おれ、ずっと疑問に思ってたんだよ。衛が優木を避ける理由はわかるけど、変なところで過保護なのはなんでかなって」
「過保護じゃ」
「あるんだよ!」
言葉だけでなくタオルまで奪われ、ぐしゃぐしゃっと頭をまさぐられた。
おかげで水分はほとんど拭かれたが、髪は荒れに荒れている。
羽乃はふてぶてしく笑った。
「衛は、過保護だよ。優木が意識ないときに限って、超やさしくすんじゃん」
「……」
「ちょっと前の中庭でのこともそうだし、今日の昼休みだって何かあったんだろ? な、鈴夏?」
「あー、うん。ファンクラブの会長の子に聞いた。優木まりあを助けるように、衛から指示されたんだって」
前にある別のソファで、物憂げに膝を抱える鈴夏まで。
ぼんやりとしてた……今もしてるくせして、はっきりと過保護説を主張してきやがる。
羽乃の笑みが気持ち悪くなっていき、静かに目を逸らした。
「影で助けるヒーローじゃん」
「……そんなんじゃねえよ。気まぐれだ」
「気まぐれねぇ?」
そういうことにしておいてやるよ、と羽乃に見逃されたが、もう見透かされているんだろうなと思う。
本当に気まぐれでやってたら、ただのお人好しだ。
オレはそんなやさしい人間じゃない。
もちろん過保護でもないし、ヒーローなんて出来た男でもない。
オレは甘いんだ。