マリアの心臓



「おれ、ずっと疑問に思ってたんだよ。衛が優木を避ける理由はわかるけど、変なところで過保護なのはなんでかなって」

「過保護じゃ」

「あるんだよ!」




言葉だけでなくタオルまで奪われ、ぐしゃぐしゃっと頭をまさぐられた。

おかげで水分はほとんど拭かれたが、髪は荒れに荒れている。

羽乃はふてぶてしく笑った。




「衛は、過保護だよ。優木が意識ないときに限って、超やさしくすんじゃん」

「……」

「ちょっと前の中庭でのこともそうだし、今日の昼休みだって何かあったんだろ? な、鈴夏?」

「あー、うん。ファンクラブの会長の子に聞いた。優木まりあを助けるように、衛から指示されたんだって」




前にある別のソファで、物憂げに膝を抱える鈴夏まで。

ぼんやりとしてた……今もしてるくせして、はっきりと過保護説を主張してきやがる。


羽乃の笑みが気持ち悪くなっていき、静かに目を逸らした。




「影で助けるヒーローじゃん」

「……そんなんじゃねえよ。気まぐれだ」

「気まぐれねぇ?」




そういうことにしておいてやるよ、と羽乃に見逃されたが、もう見透かされているんだろうなと思う。

本当に気まぐれでやってたら、ただのお人好しだ。


オレはそんなやさしい人間じゃない。

もちろん過保護でもないし、ヒーローなんて出来た男でもない。



オレは甘いんだ。


< 87 / 155 >

この作品をシェア

pagetop