マリアの心臓
『すみません……また、オレのせいで……』
『責任を感じすぎないで。無茶をした本人の責任よ』
『いつも送り届けてくれてありがとう』
あいつを家族の元に送り届けるたび、痛感する。
自分がどれだけ、毒なのか。
いつだって、あいつの心を、身を、蝕んでる。
『きみが娘を避ける理由は、わかってるつもりだ』
『……っ、……すみません』
『わたしたちのほうこそ、いつも娘を止められなくてごめんなさいね。娘は、本当に、あなたのことを好いているから……』
優木家は、裕福だ。
父親は、大企業の社長の右腕。
母親は、良家の娘。
特別な情報網があってもおかしくはなく、オレの背景などとうの昔に知られていただろう。
病弱な一人娘が、こんな男と会うのは、反対なはずだ。
許嫁だったとはいえ、どん底まで堕ちた不良に、何が期待できる?
きらわれていてもおかしくはないのに。
それでも、彼らはけっして、オレを拒まない。
愛を、否定しない。
決別したはずの過去が今にも追いかけてきてしまいそうで、何も言えなかった。
つくづくオレは甘い。
ぽつぽつと降り出した雨に、助けられた。