マリアの心臓



肌の上を走る、生ぬるい風。
道端を彩る、かわいい野花。
通学路にひるがえる、セーラー服。


どれも気持ちがよくて、ステップがはずむ。


ドキドキのリズムに乗せて、影を踏んでいく。

少し前に長く伸びた影に、つま先をちょん、と。


くぁ、と眠たそうに伸びをしたその影は……あ、ウノくんのだ。




「ウノく……!」




左の角から自転車が飛び出した。

すぐさま彼のリュックをつかんで、全力ストップ。


リンリンッと自転車の鈴の音が通り過ぎていく。




「な、な、な!?」

「おはよう! 危機一髪だったね!」




リュックをぽんと叩き、右側からニコッとほほえみかける。

合点のいった彼は茶目をまん丸くさせる。




「……い、イケメンかよ」

「ん?」

「い、いや……お、おはよ。ありがとな」

「こちらこそ!」

「へ?」

「この間、助けに来てくれたでしょ?」





倉庫に攫われた日、ウノくんもいたんだよね?

実際に見たわけではないけれど、ウノくんぽい声が聞こえた気がしたんだ。




「よくわかったな」

「直接会ってお礼が言いたかったの。ありがとう」

「おれも助かった。自転車気づかなかったから」

「どういたしまして!」

「体はもう平気なのか?」

「うん! ばっちり!」




腕にぐっと力を入れても、力こぶは……残念、できない。

けど、2日間寝続けた結果たまりにたまったパワーはくすぶってるよ!




「アハハ、おれより元気そうだな。だから自転車から助けられたのか」

「ふふ、そうかも」

「……そういや、前にも似たようなことで助けられたよな」

「あったね。中庭のときだ」

「そう、そんときも…………」

「……?」




あれれ? 急に黙りこんじゃった。

どうしたんだろう。


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