マリアの心臓
首を傾げると、ウノくんは困ったように破顔する。
「やっぱ、かっけぇなと思ってさ」
「アタシが?」
「うん、かっけぇよ」
「……かっこいいのは、みんなのほうだよ」
やさしくて、たくましくて。
真っ直ぐで、揺るぎなくて。
女の子も、男の子も、惹きつけてしまう。
その強さは、アタシの理想そのもの。
そういうところに、彼女も溺れていったのかな。
「お、衛だ。えーい! はよーっす!」
「羽乃、は……」
ちょうど校舎に入ろうとしていたエイちゃんが、振り返りざまあいさつを返し……かけて、沈黙。
アタシがいると知った瞬間、澄んだ碧眼は朝日をシャットアウトしてしまう。
無言のままさっさと立ち去ろうと上履きを履き潰した。
「あっ、え、エイちゃん!」
「……」
「2日前、エイちゃんも助けてくれ……」
「……」
「あ……!」
「……あちゃー、衛のやつ、行っちゃった」
今日は、立ち止まってもくれなかった。
あのすらっとした足が歩き出してしまえば、あっという間に距離ができてしまう。
ただ、ありがとうって、言いたかっただけなのにな……。