マリアの心臓
小学校を卒業する間近のこと。
いっこうに心臓がよくならなくて、卒業式にすら参列できそうになかった彼女が、絶望に打ちひしがれていたとき。
毎日欠かさずお見舞いに来てくれた彼が、端整な顔をめずらしく真っ赤に染めて。
あの2文字を、告げた。
『好きだ。許嫁とかそんなの関係なく、大好きだ』
純白に覆われた部屋の隅っこ。
夕闇の光の注ぐ、ふたりきりの時間。
涙で濡れたシーツにくるまる彼女を抱き寄せ、心音を重ね合った。
まるで、結婚式の予行練習のように。
ずうっといっしょ。
そんな幼い約束を、ホンモノに変えてくれた。
この人に永遠を捧げたいと思った。
彼の存在こそが、生きる意味だった。
「心臓って、ひとつしかないじゃない?」
「え、ああ、うん?」
「だからそれを奪われちゃったら、もう、どうしようもないよね」
「……えっと、つまり?」
あの『好き』は、きっと、いつかの桜の花びらだった。
「つまり! ハートをくれるのは、いつも彼だったってこと!」
「わ、わかるような、わかんねえような……」
わかんなくたっていいんだよ。
宝物のような想いを、あげて、もらって、大きく育んでいったふたりだから、わかるんだよ。
……ねえ、エイちゃん。
ほんとはわかってるんでしょう?
あなたのハートが、どこに在るのか。