マリアの心臓
「鈴夏は根っからのB型だな……」
購買のほうへ遠のいていく彼を一瞥しながら、ウノくんは苦笑をこぼす。
アタシがとんとんと紙をまとめれば、その半分以上をウノくんに持っていかれた。
紳士だなあ。
さりげなくやさしくしてくれるから、好きって伝えたくなるヒトが絶えないんだろうな。
「……ん? おれのこと、見てた?」
「ううん! なんでも!」
左アングルから見てもすてきだなあ、と。
思って、はたと気づき、右側までぐるりと回りこんだ。
うん、やっぱりこっちがいい。
「ど、どうした?」
「ふふ、行こっか」
「……お、おう……?」
先に歩き出したアタシを、彼は数拍遅れて追いかける。
あんなににこやかだった彼の白肌に、いやに浮いた血管が引きつっていた。
廊下をひたすら進むと、資料室の文字を見つけた。
ほこりのかぶったデスクに、プリントを置く。
これで任務完了!
「よし! 教室にもど」
ろうか、と振り返り――ドンッ!!
突然。
デスクが、跳ねた。
はらり、と1枚、一番上のプリントがほこりとともになびく。
勢いよく机上に手をついたウノくんが、アタシごと囲いこんだ。
首を少し回しただけでくっついてしまいそうなほどの至近距離。
突然、ほんとに突然のことすぎて。
おどろく暇もなく。
突き合わせた顔が、重圧をかけてくる。
目が、離せなくなるほどに。
「なんで、知ってる」
「な、なに……」
「知ってんだろ? おれの左目が見えないこと」
今、動揺しているのは、むしろ、彼のほうだった。