heartbreak secret room 森村医師の2月14日は・・・?



『あのね~、オレを犯罪者にしないで下さいな。まりんはずっと前にオレが手術した多指症の女の子。』

「多指症・・・か。それで術後は順調か?」


まりんがくれたその箱に関心を示した日詠サンにも話してみたくなった。
彼女がずっと頑張っていることを。


だからオレはまりんがくれたその箱をそっと開けてどんな物が入っているか自分の目で確認した。


『ああ、こうやってお母さんと一緒にチョコクッキーを作れるぐらいまで、手が器用に使えているみたいだしな。』

「・・・・そうか・・・・。」

『自分が手術した患者から、“指が曲がるようになった、”とか“手首が動かしやすくなった”っていう話を聴いても、それだけの手術をやっているんだから当たり前だろって偉そうなことを思うんだけどさ・・・・・』

「・・・・・・・・・・・。」



オレが久しぶりに真面目に話をしようとしているのを察したのか
日詠サンは黙ったまま耳を傾けてくれていた。


『でもさ、まりんみたいに、日常生活の中で“クッキーが作れるようになった”とか“クレヨンを持っておえかきがたくさんできるようになった”っていう話を聴くと、オレも少しは役に立てたのかな~って思えるんだよな。』


日詠サンのそういう態度にまだ慣れていないオレは
照れ隠しに、まりんの焼いたウサギの形のチョコクッキーを摘んで、それを透かすように見つめた。


「森村・・・・」

『・・・・はい?』


オレのご機嫌を窺うようなその呼びかけも
いつもの・・・ぶっきらぼうにオレを呼ぶ声じゃなくて
なんか・・・調子狂う



「そのクッキー、もし良かったら俺にも分けてくれないか?」

『あ~、さっき、俺、レイナの作ったメロンパン1個食ったから、お返ししないといけないな。』

「そうじゃない・・・・本当はそんな大事なクッキーを貰うべきではないとわかってはいるんだが・・・・そのクッキーが医師としての初心を想い出させてくれるような気がするから。」

『へぇ~、嬉しいこと、言ってくれるじゃん。』


オレと似たような視点をもっているらしい日詠サンに
躊躇うことなく、まりんが焼いてくれたクッキーを1枚だけ差し出した。

日詠さんは“ありがとう”と言いながら、それを受け取り、早速、それを小さく噛み、目を閉じた。

口の中でゆっくり噛み締める姿は
そのクッキーをとても大事に思っているようにも感じられた。


「・・・俺は、先天性疾患(生まれ付きの病気)を持って生まれた子供が後々、お前みたいなドクターに出逢えることは・・・・・・幸せなことだと思う。」

彼のその言葉からもそれが感じられた。

彼の言動から、嬉しさという感情がこみあげて
そういう自分を隠すことに必死になった。


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