heartbreak secret room 森村医師の2月14日は・・・?


「もう・・・同じ部長でも・・・日詠先生となんでこうも違うんでしょうか?」

『そんなに違う?』

「雲泥の差です!」

「オレ、雲?」

『泥です!!!!』


看護師にバッサリ斬られ、両手をかけていた処置カートを処置室まで押していくハメに。


「森村先生~、尻に引かれてるな~。笑える。」

『今日だけはおとなしくするしかないんだよな~。目の前にニンジンをぶら下げられた馬状態なんで。」

「ごちゃごちゃ言ってないで仕事して下さい!!!!ハイ、ピンセット!」

『・・・・ハイ・・・』


処置室では俺が数日前に手術した中年のおじさん患者が俺を待っていて下さったので、すぐさま処置にとりかかる。

渡されたピンセットを手にとり、すぐさま目の前に差し出されたピンセットで摘まれたイソジン液に浸された綿を摘み損ね、落下・・

ただでさえ、遅れ気味で付き添ってくれている看護師の機嫌を損ねているのに、この有り様・・・

この先、オレはどうなるんだろう?



「森村先生・・・・・床、茶色になってますけど・・・」

『後程、おそうじ致します・・・・』

「キ・レ・イに拭きとって下さいね。縫合はこんなに丁寧なのに、手術や処置以外は本当にテキトーなんだから・・・」

『承~知致しました・・・・。』


オレと若手看護師のやりとりを傍で見せられる形となった中年のおじさん患者はクククッと笑い、“森村先生、いつもの調子はどうした~?”と冷やかされた。


『だから、ニンジンを追いかけてる馬なんだってば!』


「とにかく腕がいいからって聞きつけて、どんな名医だろうってガチガチに緊張して富山の山奥からここに来たのに・・・・・本人に会ったら緊張しているのがバカらしくなったんだよな~」


『でも、腕はいいだろ?』

「間違いないね。」


鑷子(せっし)を使って糸を抜いている途中だったが、彼と顔を見合わせてニヤリと笑った。


「森村部長、抜糸!」

『ハイハイ~っと。』


オレは
看護師に尻を叩かれながら
そして、おじさん患者にニヤニヤ笑われながら
手掌(てのひら)にある縫合創(手術で縫い合わせた創)の抜糸処置を行った。



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