春色溺愛婚 〜歳上御曹司の溺愛で陰険お嬢様は乙女に変わる〜
契約結婚に、優しさは必要?
「よくやったな、梓乃。一輝君の方からこの話をぜひ進めて欲しいとの申し出があった。お前もやればできるじゃないか!」
一輝さんとの話を終え料亭に戻った後は、父ばかりが彼の隣で話していて私が口を挟むことは無かった。それでも家に帰り付いた途端、父からそう言われて私も少しホッとしてしまう。
……ただ父の、お前もやれば出来るって言葉がちょっとだけ気に入らなかったけれど。
「そうですね、一輝さんは落ち着いていてとても素敵な方でしたので私も嬉しいです。彼と暮らす日が待ち遠しく感じます」
「そうかそうか、では一輝君にそう伝えておこう。そうして結婚までにしっかり仲を深めておきなさい」
……余計なお世話よ、くそジジイ。心配しなくても私と一輝さんの利害は一致しているし、この話が無くなる事はないでしょう。
私は彼に嫁ぐまでに自分の未来のための準備をしていればいい、それだけだわ。
そんな腹の内は微塵も顔に出さず、令嬢らしい優雅な笑みを浮かべて父の部屋から出た。
「千夏だけじゃなく梓乃も卑しい女だったのね、どうやって高宮の御曹司を誑かしたのかしら?」
部屋の前でわざとらしく立って待っていたのは、長女の百々菜だった。彼女の事だからコソコソと聞き耳でも立てていたのでしょうね。
よほど私や腹違いの姉に良い縁談が来たのが気に入らないのか、汚い言葉で私達を罵ってくる。そんな性格だから貴女は選ばれないんでしょうけどね。