春色溺愛婚 〜歳上御曹司の溺愛で陰険お嬢様は乙女に変わる〜
「こんにちは、梓乃さん。少し早く来てしまいましたが、大丈夫ですか?」
使用人から呼ばれて玄関に向かいと、そこにいたのは和服に眼鏡をかけたふわっとした雰囲気の男性。一瞬だけ誰かと思ったが、その落ち着いた柔らかな声音でこの人が一輝さんだと分かった。
初めて会った時はきっちりとしたスーツ姿で眼鏡もかけてはいなかった。後ろに流していた髪も今日はサラサラとそのままにしているようで。
「誰かと思いました、一輝さんは普段そういう格好をされているんですね」
江戸鼠色の着物は一輝さんにとても似合っている。それに実は私は眼鏡フェチだったりするので、一輝さんが前会った時より二割増しくらいで素敵に見えていた。
さすがにそんな事を言えるわけがないので、いつものように優雅に微笑んでいたのだけど。
「ああ、そうなんです。私は普段はこのほうが落ち着くので、やっぱり年寄り臭く見えますか?」
「そんなことはありません、私は今日の一輝さんの方が親しみやすい気がして好きですよ?」
嘘はついていない。今日の一輝さんの格好を和服だと思ってなくて、隣を歩く自分の格好が花柄のワンピースで良かったかと迷うほどだった。
先にどんな格好で来るのかを聞いておけばよかったわ。そう思ったがそんな私に気付いたのか、一輝さんは私の近くに来て微笑むと……
「今日の梓乃さんもとても可愛いですよ、隣に立つのが少し緊張しますね」
なんて言ってくれる。これが年上の余裕ってことなのかしら?