春色溺愛婚 〜歳上御曹司の溺愛で陰険お嬢様は乙女に変わる〜
「ありがとうございます。それで、今日はどこへ?」
さすがにこの家の中で契約結婚についての話は出来ない、一輝さんもそれを分かっているはずだから私はそのままお気に入りのミュールを履いて外に出る。
一輝さんもそんな私の隣を当然のように歩き、停めていた彼の車につくと後部座席のドアを開けてくれた。
運転席を見れば、そこにはおかかえの運転手だろうか? 初老の男性がピシッとしたスーツ姿でハンドルを掴んでいる。
私が車へと乗り込むと、一輝さんは私の隣へと座る。狭い空間でこんなに近くにいるとちょっと緊張する、でもそれを知られたくはない。
背を伸ばし姿勢よくして私は何ともありません、という顔をして見せる。赤くなって俯いているような女の子の方が可愛いかもしれないけど、そんなの私の性格に合わないもの。
「今日はまた違うお店に梓乃さんを連れて行きたくて。貴女はとても美味しそうに食べるから、私もその顔を見るのが楽しみになってしまって」
「……食意地が張ってると言いたいんですか?」
確かにそれは間違っていない、私は何より食べることが好きで食事の時間が一番幸せだと思っている。あの家で暮らしているとストレスばかりが溜まり、いつの間にか食べることだけが楽しみになっていた。
さすがに一輝さんにそんなことは言えないけれど……