春色溺愛婚 〜歳上御曹司の溺愛で陰険お嬢様は乙女に変わる〜


「着きましたよ、梓乃(しの)さん」

 窓の外を眺めてボーっとしていたので、一輝(いつき)さんにそう声をかけられるまで今自分がどこにいるのかも分かっていなかった。
 車から降りて一輝さんから差し出された手に、戸惑いながらも自分の手を重ねる。これはこの人との結婚のための予行演習に違いない、そう思い込むようにして。

「……今日はイタリアン、ですか?」

「ここのドルチェはオススメなんですよ、ランチに追加で三種類のドルチェが選べるんです」

 ……その言葉に、ついゴクリと喉が鳴る。私はイタリアンもドルチェも大好きだし、一輝さんには私が大食いだということはバレているようだから食べるのを我慢する必要もない。
 壁に貼られた大きな看板には美味しいそうなピザやドルチェが並んで写されていて、ウズウズしてくる。

「入りましょうか、梓乃さんが嫌でなければ」

「嫌いなものはないので大丈夫です、風が冷たいので早く中に入りたいですし」

 私がそう返事をすれば、一輝さんはにっこりと微笑んでつないだ手はそのままに店のドアを開ける。すぐに店員が来て奥の席へと案内された。

「ここには、よく来るんですか?」

「……そうですね。こっちに用事があってたまたま寄ったのがきっかけですが」

 少し間が空いた気がしたのは私の気のせいなのかしら? あまり深く考えず、私と一輝さんはドルチェ付きのランチセットを注文した。


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