春色溺愛婚 〜歳上御曹司の溺愛で陰険お嬢様は乙女に変わる〜
「よろしかったのですか、百々菜様にあんな態度を取っては後が大変なのでは?」
そう声をかけてきたのは私の世話係ともいえる年配の女性、長年この屋敷に勤める彼女は姉の面倒臭さもよく知っていた。自分が不利になればすぐに父や兄に甘えて自分の思い通りにしようとする、それは私だけでなく使用人たちに対しても同じだったから。
「いいのよ、どうせ私は近いうちにこの家を出ることになるんだし。あの姉の我儘にも、もう我慢する必要は無いわ」
この家の中で静かに平和に過ごしていくためには百々菜のご機嫌取りが必要だっただけ。だけどもうそれももうお終い、私は一輝さんと新しい暮らしを始めるのだから。
「……千夏様も結婚して出ていかれて今度は梓乃様まで、寂しくなりますね」
この女性は異母姉の千夏にもきちんとした態度で接していた事を知っている、だからこの言葉も本心であると信じられた。
「ありがとう、これから先も父や兄姉の事をよろしく頼むわね」
「はい、もちろんです」
私もいなくなれば、この家残るのは横暴な父と言いなりの兄……そして我儘な姉になる。使用人は何人も雇われているが、こんな性格の人間ばかりなのであまり長続きはしない。
だから彼女のように長く勤めてくれる人に頼む事くらいしか出来なかった。
小さく頷いた女性に「夕食の時間まで休むわ」とだけ伝え、私はそのまま自室に向かって歩いて行った。