春色溺愛婚 〜歳上御曹司の溺愛で陰険お嬢様は乙女に変わる〜
バックを机に置くと、そのままベッドに腰掛ける。普段ならすぐに楽な服装に着替えるのだけど、何となくそれも億劫な気分だった。
今日のお礼のメッセージを送るべきかと片手にスマホを持ったまま考える。美味しい料理やデザートをご馳走してもらい、展望台にも連れて行ってくれた。てっきり契約結婚についての話をするのだとばかり思っていたから、一輝さんの行動は予想外ではあった。
「ありがとうございます、って送ればいいのよ。それだけで……」
でもあんな風に気まずい別れ方をして、一輝さんは不快に思ったかもしれない。次に私を誘おうなんて気持ちも無くなってしまったかも。そう思うとなかなかメッセージの送信ボタンを押すことが出来ない。
もっと事務的にこの結婚に望んでくれればやりやすいのに、一輝さんは少しそうじゃないような態度を見せる。それがとても私を混乱させていた。
「ああ、もう! ややこしいわね、こういうのは苦手なのよ」
やけになって此方から次のデートへの誘いの言葉を打ってみたが、もちろんそんな文章は送れるわけもなく。そのまま削除しようとしたのに……
「え? あ、ああっ!」
反応の悪いスマホに苛立って何度もタップしてしまい、間違って送信ボタンに触れてしまう。慌てて取り消そうとしても後の祭り、送信されたメッセージにすぐに既読マークがついてしまった。