春色溺愛婚 〜歳上御曹司の溺愛で陰険お嬢様は乙女に変わる〜
『そうですね、梓乃さんには期待しています。きっと素敵な奥さんになってくださると』
わざとこんな言い方をしているのかもしれない。私が自分たちの関係は形だけのものだと強調するたびに彼は意味深な言葉で私の心を揺さぶってくる。まるで自分はそうではないと言うように。
こんな時、一回り以上年が離れていることが悔しく感じる。何を言っても上手く一輝さんの手の上で転がされてる気がして。
「ええ、もちろんです。一輝さんに納得してもらえるような妻を演じてみせますから」
こんな形で彼から距離を取ろうとする私と、契約だと理解しているのにそれを縮めようとする一輝さんとのやり取りは結局夜遅くまで続いてしまった。
さっさと寝ます、と送って会話を終わらせれば良かったのに。そうしなかったのは何だかんだで一輝さんとの話が楽しいからなのかもしれない。
コロンとベッドに横たわると、何となくさっきまでの会話の内容を読み返してしまう。一輝さんからのメッセージに何か彼の本音が隠されていないかと、一文一文を何度も見返した。
「……何をやってるのかしら、私は?」
一輝さんの本音がどうであれ、私達は契約結婚をするだけなのに。それはもう決まっている事、なのにどうしてこんなに彼の事を知りたくて仕方なくなるのか。
その事に戸惑いを感じ、私はスマホの画面をオフにして小さく息を吐き瞳を閉じた。