春色溺愛婚 〜歳上御曹司の溺愛で陰険お嬢様は乙女に変わる〜
「こんにちは、梓乃さん。今日は出掛けるのにちょうどいい天気ですね」
「……こんにちは」
今日も一輝さんは藍色の着物姿で、私に屈託のない笑顔を向けてくる。その瞳の奥に打算的な何かが見えないかと疑う自分が馬鹿らしく感じるほどに。
彼のどこが女性嫌いで理想が高い我儘御曹司なのか、噂とは本当にあてにならない。
「今日の梓乃さんの服も素敵ですね、この春によく合うコーデだと思います」
一輝さんはこうやって私の事を必ず褒めてくれる、今日は和服の一輝さんに合わせてあまり派手過ぎない服を選んだつもりだった。
それでもそんな一輝さんの言葉にちょっとだけ嫌味を言ってやりたくなるのは、私の性格が捻じれているからかもしれない。
「そうですね、私も服は可愛いと思います。まあ、ファッション雑誌をそのまま真似ただけですけどね」
半分は嘘。この日のために天候を調べて、一輝さんが和服でも洋服で来ても合うようなコーディネートを考えたのだから。
それを素直になれずこんな言い方をしてしまう私は、本当に可愛げがない。姉の千夏が聞いたらきっと呆れてしまうに違いない。
「それでも私と出掛けるのに、貴女が服を迷ってくれる時間が嬉しいんです。今日はどんな梓乃さんが見れるのかとワクワクして来ましたから」
一輝さんにこっちの方が恥ずかしくなるような返事をされて、結局黙り込むしかなくなる。本気にしちゃいけないって分かってるのに、どうしてこうも簡単に心を揺さぶられてしまうんだろう。