春色溺愛婚 〜歳上御曹司の溺愛で陰険お嬢様は乙女に変わる〜


「どこまで行くんですか? さすがにあまり遠くまで行くのはどうかと思うんですけど」

 両親のいる料亭を出ると一輝(いつき)さんは私をタクシーに乗せ、そのまま運転手に何かを囁き黙り込んでしまった。特に不機嫌そうなわけでもないが、何を考えているのかは全く分からない。
 どこに向かっているのか、何を私と話す気なのか。それについての説明もないままで、私はどうすればいいのか……

「もう少しです、私が信頼出来るお店に連れて行きますから」

 信頼出来るお店? つまりさっきまでいた料亭は信用出来ないという意味に聞こえる。それなりに格式高い料亭だったのに、なぜそんな事を言うのか。
 でもそれはまだ聞いてはいけない気がする、その時が来たらこの人はきっとちゃんと話すつもりなのでしょうし。

「そういえば梓乃(しの)さん、お腹はすいてませんか?」

「え? ああ、そう言えば……」

 今日は着付けなどの準備に時間がかかるからと、朝早く軽くサンドイッチを摘まんだだけでそれから何も食べてない。自覚するとお腹がグウッと音を立てた。
 一輝さんに聞こえてしまっただろうか? 上手くタクシーの音でかき消されていればいいのだけれど、そんな私に彼は優しく微笑んで……

「良かった、料理も美味しい店なんです。おすすめはそうですね、私は釜飯が好きですよ」

 そうやって明るく話を続けていく。思ったほど嫌な相手ではないのかもしれない、そんな風に思わせるところが彼にはあった。


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