それでも、この世界で生きていて。
~con fuoco 火のように、生き生きと~
私は、一人トイレにこもり、ため息をつく。
いつもまにか爪を立ててぎゅっと握っていた拳は、白くなっている。
葵(あおい)ちゃんの、ころころとした声が蘇ってくる。
『ももこちゃんね、初(うい)ちゃんのことが怖いんだって。初ちゃんにおこられたことがあるんだって~』
・・・だから、何よ。私に何をしろっていうの。
そう言いたかったけれど、そうは言えなかった。
ただ笑って、『その時はももちゃんの何かに私怒ってたの。もう覚えてないけど、お互い様なんだよ』と、濁して微笑むことしかできなかった。
私は弱いから。皆に嫌われたくなくて、いっつも八方美人してる。
・・・ああ、もう、ムカつく!何なのよももこ・葵(あの子たち)!
心の高ぶりを抑えるように、大きく息をついて、ゆっくり立ち上がり、ドアの外に耳をすませる。
誰もいないのを確認してから、ゆっくり外へと出て、なんでもなかったように教室に戻る。
「あ、初ちゃん!結局7人で行くことになったんだって。多いよね~」
「うん」
もともと、目の前にいるこの姫奈(ひめな)ちゃんと、葵ちゃん、そして夢ちゃんといっしょに、遊びに行くはずだった。
なのに、ももちゃんが夢ちゃんに「私も行くの」って言ったらしい。それで、ほかの子数人を巻き込んでむりやりはいってきたのだ。
夢ちゃん曰く、『ももちゃんが私も行くって言ってた』らしい。ちなみに私はこちらを信用している。
そして葵ちゃん曰く、『夢ちゃんがももこも誘ってた。他の2人も』。彼女はオオカミ少年(嘘の前科あり)なので、あまり信じない方がよい。
と、まあ、友人の信用度に格差があるのは置いておいて。
結果的に、私が最も苦手としているタイプである坂本ももこ他3人が乱入してくる羽目となったのだ。トイレで愚痴るくらい許してほしい。