冷え切った皮膚でも抱いといて
「手、繋いでるのに、なかなか温まらない」

 夜に溶けて消えてしまいそうなほどに小さく響いた、まるで独り言のような神崎の声。悲しみが含まれた本音のようなその言葉に、ピクッと指先が僅かに反応した。空気に触れる冷えた指先。俺の甲に触れる温かい指先。神崎の言うように、俺の手は、ずっと、冷たいまま。

 アイス、だから。言いかけた言葉を、咄嗟に飲み込む。アイスだから、冷たい。アイスだから、悲しい。アイスだから、苦しい。アイスだから、もどかしい。好きと言えないのも、俺がアイスだから。神崎の触れる手が繊細なのも、俺がアイスだから。そんな、取ってつけたような、仕方がないと諦めているような、理由、否、言い訳。思い通りにならない、できない原因を、俺は、全部、特殊体質、アイスのせいにしている。それに、何の前触れもなく、気づかされた。

 俺の手を握り続ける神崎の行動に応えるように、俺は力を抜いていた指で、彼の甲を捕らえた。完全に受け入れた、恋人繋ぎ。俺と神崎は恋人同士ではないのに。でも、神崎の恋人になれるものならなりたいと思っているから、例えこれが紛い物であったとしても、許してほしい。
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