冷え切った皮膚でも抱いといて
「秋月」

 手を握り返されても冷静で。少しも困惑しない神崎の落ち着いた声と、夜道をゆっくりと歩いていた中、音もなく静かに止まる足。手を繋いでいるため必然的に俺も、神崎よりかは少し前に進んだ先で足を止めた。お互いに、絡めた指は離さない。そうしたまま、高校生の時に手を合わせて同じくらいだと言い合ったあの頃から変わりのない指や手のひらに触れたまま神崎を振り返ると、まだ染めたことはないという漆黒のような麗しい髪が、それに劣らないくらい整いすぎた端正な顔が、暗闇の中で輝く月明かりに照らされていて。思わず見惚れてしまった。それはまるで、リアルを追求して描き上げた、一つの絵画のようだった。

 儚げに揺れる瞳。切なさ、悲しさ、苦しさ、もどかしさ。色で例えるのなら、青くて碧い。そんな、喜怒哀楽の中の、哀。その全てを溶かして混ぜて体の一部にしたかのように蒼い色をした目で、彼は俺を見つめていた。手と同じように身長もほぼ同じ。見上げているわけでも、見下げているわけでもない。真っ直ぐ目を向けた先で、美という言葉があまりにも似合いすぎている、寧ろ彼のためにある言葉なんじゃないかと大仰な思考に陥ってしまうくらい華麗だと感じる神崎と、人より体温が低い特殊体質のアイスで、恋に積極的になれない臆病な俺の視線が、ぶつかる。絡み合う。
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