冷え切った皮膚でも抱いといて
「秋月」

 俺の自棄飲みを見て言葉を落とす神崎の声が、床を踏む音が、近づいてくる気配が、伸ばされた手が、暴走する俺の行動を止めようとする。酒を嗜んでいる飲み方ではないと一目見ただけで分かってしまうほど、今の俺は荒んでいるのかもしれないと他人事のように思った。

 神崎の手が、俺よりも高い体温を持つ神崎の骨張った手が、流し込むように酎ハイを飲んでいる俺の手首を掴み、5%のアルコールが入った缶を飲み口に触れていた唇から引き離した。ほんの少し中身が零れてしまったが、俺も神崎も、そんなことなど気にも止めずに。常に持ち合わせているはずの言葉を全て殺した。

 がぶ飲みのせいで唇が通常よりも濡れていた。ひりつくような炭酸が喉の奥を刺激する。神崎の視線が痛い。触れられた手が熱い。熱い。熱かった。熱くて、熱くて、涙が出そうなほどに、熱かった。俺はやっぱり、冷たいまま。酒に頼っても、俺の体温は上がらない。

 飲みかけの酎ハイを机の上に静かに置いた神崎は、俺の手首を掴んだままその場に跪いて。抗えない運命に、現実に、密かに涙を呑む俺の頬に指先で触れた。輪郭をなぞるように、辿るように、軽く、優しく。かけられる言葉はない。それでも、俺を見る神崎の目には、青が見えた。澄んだ黒の中に溶け切らないまま淡く広がる青が、鮮やかなその色が、俺にはしかと見えたのだ。悲しい。哀しい。切ない。苦しい。もどかしい。神崎の目が、心が、揺れている。
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