冷え切った皮膚でも抱いといて
 きっと、そういう、雰囲気だった。頬に触れていた神崎の手が、滑るように首の後ろに移動する。呑み込まれるように、流されるように、顔を近づけてくる神崎に、俺はずっと、触れてほしかった。アイスでも、冷たくても、求めてほしかった。アイスだから、冷たいから、その温もりに抱かれたかった。その温もりで溶かしてほしかった。それなのに、神崎に応えるように力を抜いて、受け入れようとしたのに、彼は。俺の期待を残酷に裏切るように、唇が重なる寸前で、やめた。躊躇した。吐息は既に、空気中で交わっていたのに。

 近づいて、また、離れる。自分の行動を恥じるように顔を背け、ごめん、と謝ってきそうな雰囲気を醸し出している神崎に、腹の中をぐちゃぐちゃに掻き回されているような苛立ちを覚えた。なんで。どうして。神崎。そこまでしておいて、どうして途中で壁を作るのか。いっそめちゃくちゃに、乱暴に、自分勝手に、自分本位に、抱いてくれたら、嫌いになれるかもしれないのに。恋に、苦しまなくて済むようになるかもしれないのに。

 キスしそうになったことに気まずさを感じている神崎の行動は、矛盾している。唇で触れることを躊躇っているくせに、掴んだ手首は離さないなんて。溢れる何かを我慢するように、その手に力が入っているなんて。

 俺との関係を続ける中で、超えられない一線を、超えてはならない一線を、神崎は自ら引いている。俺は何もしていないのに。敢えて、無防備なまま振る舞っているのに。
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