冷え切った皮膚でも抱いといて
 俺に触れる神崎の熱を思い出し、顔が紅潮する。男とした初めての行為は、正直、涙が出るほど、気持ちよかった。期待していた以上に、神崎の手は甘くて優しくて。何度も好きだと言いそうになったが、その度に神崎が察したように口を塞いでくれる。どちらかが好きだと言えば、俺も神崎も、きっと、止まらなくなるから。ぐらぐらとしていて不安定な関係が、その言葉をきっかけに崩れてしまうから。だから、言えない。言ってほしくない。俺がアイスである以上、その心理戦のようなやりとりは免れないのかもしれないと思わずにはいられなかった。

 頭と体を軽く洗い、浴室から出ると、俺のものではない衣服が綺麗に畳まれた状態で用意されていた。言わずもがな神崎のものだろう。これを着ろということだろうか。だとしたら、服まで貸してもらえることになろうとは。タオルすら借りて濡れた体を拭き、畳まれていた黒い服を恐る恐る手に取り広げる。ダボッとしたパーカーと緩めのズボン。鼻を掠める神崎の香りに、思わず酔い痴れそうになった。
< 38 / 52 >

この作品をシェア

pagetop