冷え切った皮膚でも抱いといて
 恋が実った瞬間、死ぬんじゃないかと恐れ、離れ離れになるんじゃないかと怯え、未だに一歩踏み出せずにいる俺は、ずるずると神崎への想いを引きずっていた。誰とも付き合ったことがない。誰とも唇を触れ合わせたことがない。誰とも体を重ねたことがない。神崎のために全ての初めてを残しているような俺に、今更この恋を諦めることなんてできなかった。神崎がジュースじゃないという確証があれば、情けなく恋に臆病になることもないのに。

 返事を曖昧にしたまま過去に思いを馳せ、悶々とする気持ちを覆い隠すように酎ハイを口に含もうとした時、あーきーづーきー、と若干呂律の回っていないふわふわした声が聞こえたと思ったら、左隣、神崎がいる方の反対側、ほぼ真横から押し倒されそうなほどの勢いで誰かに抱きつかれた。あ、と焦燥感にも似た声が咄嗟に出て、瞬時に変化した目の前の光景にくらりと眩暈がする。血の気が引く。グラスに残っていた酎ハイが、抱きつかれた衝撃で外へ逃げ出し、隣にいた神崎の服を濡らしてしまったのだ。

「ごめ、かんざ」

「あーやっぱり秋月体温低くて今の俺にはちょうど良すぎるんだけど」
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