冷え切った皮膚でも抱いといて
「……俺、アイスだよ」

 神崎。開き直ったように、何の脈絡もなく吐き出した息が、彼を呼ぶ声が、震える。思っていたよりも弱々しくて、掠れた声だった。伝える前から知られていたのに、改めて自分の口から打ち明けると、生きていく中で与えられた運命に極度の不安や緊張が顔を出し、無駄に体が震え出した。

 白い息を吐いて情緒が不安定になる俺の告白に、神崎はうんと一つ頷くだけでそれ以上は言葉を続けなかった。代わりに、もっとこっちおいで、とでも言わんばかりに俺を引き寄せる。もどかしく空いていた隙間を埋めるように。

 神崎の手は、行動は、あまりにも優しすぎる。優しすぎて、痛い。心が。漏れなく想いが溢れる事象しかなくて、幻滅したとか、期待外れだったとか、熱烈だったはずの気持ちが一気に冷めてしまうような、どうしてこんな人に恋をしていたんだろうと自分を疑ってしまうような、そんな出来事も言動も何一つないから、瞬く間に神崎に対する好きは募っていくばかりだった。好意が、胸を苦しくさせる。
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