ずっとそばにいてくれた人、ずっとそばにいて欲しい人
「佐々木、今日は俺と帰ろ」

倉本くんが優しい声で話しかけてくれる。

でも……

「ごめん。今日も飯田くんが放課後迎えに来るって……」

私がそう言うと、倉本くんはそこにある机をガンっ!と蹴飛ばした。

驚いた私は、ビクッと肩をすくめる。

倉本くんが、こんな風にサッカーボール以外のものを蹴飛ばすのを見るのは初めて。

倉本くんは、大きくひとつ深呼吸をすると言った。

「佐々木は? 佐々木は俺より飯田と帰りたいのか?」

そんなわけない。

私は無言で首を振った。

「ごめん。俺が、今まではっきりさせなかったから、悪いんだよな。なんか、ちゃんと言うの、照れ臭くて。佐々木なら、言わなくても分かってくれてる気がして……」

倉本くん?

私は息を呑んで、淡い期待と共に、次の言葉を待った。

「俺、ずっと佐々木が好きだった。だから、付き合おう?」

ほん…とに?

出会って2年半、ずっと一緒にいたけど、何も言ってくれないから、ただの友達なんだと思ってた。

だから、この関係を壊さないように、ずっと自分の気持ちを抑えてきた。

でも……

「私……、私も、倉本くんが好き……」

私は、消え入るような声でそれだけ言うと、恥ずかしくなって俯いてしまった。

顔から火が出そうで、顔が熱くてもう倉本くんを見れない。

「佐々木……(もえ)、後で一緒に飯田のとこ行こう。俺も一緒に断ってやるから」

名前!
初めて呼ばれた……

私は俯いたまま、微かにこくんとうなずいた。

倉本くんは、そんな私の頭をくしゃりと撫でる。

「じゃ、教室、戻ろ。萌、まだ教科書とかしまってないだろ」

あ、そうだった。

倉本くんは、さっき蹴飛ばした机をきちんと元の位置に戻すと、俯いたままの私の右手を握った。

「次の土曜日、行きたいとこ、考えといて」

えっ?

私は、思わず、顔を上げて倉本くんを見る。

「初デート。こうやって手をつないでどこか行こ」

倉本くんの優しい笑顔を見た私は、素直に

「うん!」

とうなずいた。




─── Fin. ───


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