嘘と、恋。
食事を終え、行こうか、と康生さんの自宅へと連れて来られた。
それは、タクシーで、S町から20分程の場所。
康生さんの自宅はとても綺麗なマンションで、
部屋は1LDKなのだけど、とても広い。
「俺、ちょっと出るけど。
夜、帰って来るから、まりあちゃんの好きにしといて」
私をその部屋へと招き入れると、すぐそう言われた。
「そうなのですか?」
「うん。ほら、一回店に戻らないと、だし」
そっか。
あのお店、今は店長さんがお休みとかだっけ。
「とりあえず、今日は大人しく俺の帰り待ってて。
また合鍵作るから。
お腹空いたら、適当に冷蔵庫あさって食べてて。
風呂も勝手に入っていいし、歯ブラシも洗面台の下に新しいのあるし…あ、そうなると着替えか!
んー、俺ので良ければ、スウェットとか勝手に着てくれていいし。
下着とか…持って来てないかな?」
康生さんの視線が、私のショルダーバッグに向いている。
あいにく、今着替え等は持って来ていない。
セイ君の家に、家出の時に一緒に持って出たボストンバッグを置きっぱなしで、その中に色々とあるのだけど。
「彼の家に戻れば、あるんですけど…。
下着だけじゃなく…」
まさか、こんな展開になるとは思わず、
置いて来てしまった。
「そっか。
けど、その男の所にそれを取りに戻るのは、ダメ」
「なんでですか?」
「んー、そいつとは、もうこのまま縁切りなよ。
そうやってその男に会って、まりあちゃんの事本当に好きだから、とか、もう暴力振るわないとか、優しい言葉掛けて来るかもだし。
典型的なDV男のパターン。
まりあちゃん、それにころっとまた騙されそうだし」
「彼、そんな事言わないと思いますけど…」
けど、康生さんの言うように、私はセイ君に騙されていたのだろうか?