嘘と、恋。
「その後ね、父親はムショに入り、俺親戚の家に引き取られたけど。
そこは俺にとってとても居心地悪くて。
いや、その家だけじゃなく。
俺を取り囲む環境全て。
人殺しの息子だ、とか、父親が母親を殺した、とか言われまくって。
で、いつの頃か凄いグレて。
中学三年の頃、卒業したらうちの組に来ないかって、そんな俺にうちの組の若頭がスカウトしてくれて。
それで、特に迷わず、そのままヤクザになって…。
って、けっこう関係ない事迄話したね?」
「いえ…。話してくれて、嬉しいです」
康生さんの事が知れて、嬉しいと思っている。
それが、康生さんにとって辛い過去の話でも。
「そう?
なら、他に訊きたい事あるなら、俺何でも答えるよ?」
そう言って笑う康生さんは、いつもの康生さんで。
「康生さんがいい人なのは分かりました。
だからこそ、私なんかともう関わらない方がって…」
思い出すのは、先程のナガクラさんに言われた事。
"ーーその女は、ババ抜きでいう所の、ババだぞーー"
「なんで?」
「ナガクラさんが言ってたように、私と居たら康生さん―――」
「永倉なんかに、俺とまりあちゃんの何が分かるの?って感じ。あんな綺麗に箸持つような奴に」
ナガクラさんのあの綺麗な手を、思い出した。
ナガクラさんがなんでヤクザなんてやっているのかは知らないけど。
きっと、ちゃんと箸の持ち方を教えてくれるような、そんな家庭で育ったのだろう。