嘘と、恋。
「早く、話さないの?」
菜月さんはスマホと私の顔を、交互に見ている。
私は意を決して、そのスマホを耳に当てて話し出す。
「今、お店の近くに居るんですけど、
働かせてくれませんか?」
『え?今?
面接の予約って事?』
「面接?そうです!面接です」
そう私が反芻すると、電話の相手はクスクスと笑っている。
『写真付きの身分証とか、今持ってる?』
写真付きの身分証なんて持ってないし。
そもそも、持っていても、年齢誤魔化すから、意味ないし。
けど、先程菜月さんが言っていた感じでは…。
「有ります。大丈夫です!」
『んー、今、うちの店の近くに居るんだよね?
じゃあ、今からおいでよ。
特に履歴書とかいらないから、今から面接してあげる』
「あ、ハイ。
では、すぐに伺います」
そう言って、私は通話を切った。
「上手くいったみたいで。
良かったね?」
「はい…。
スマホ迄、ありがとうございます」
「いえいえ」
私が返したスマホを、菜月さんは受け取ると、
じゃあ、とそのまま私の横を通り過ぎて行った。
そうか。
この人は、たまたまこの道を通って、
その道に私が居ただけなのか。
私は振り返り、自分から遠ざかって行く、菜月さんの背を見た。
その後ろ姿も綺麗で、ちょっと見惚れてしまった。