嘘と、恋。
その時の記憶は、曖昧で。
私は洗面台で真っ赤に染まった顔を洗うと、
事前に荷物を纏めていたボストンバッグの中に、凶器の包丁を入れた。
それを持ち、アパートの部屋から出る時、玄関の近くに置きっぱなしの母親の鞄の中から、財布も抜き取った。
この時は、もう自分がブログに書いた事なんて忘れていて。
公園の前で、
「まりあちゃん?」
そう、セイ君に声をかけられる迄。
私はブログの事を思い出し、そうです、と頷いた。
そして、勝手にそのセイの車に乗り込んでいた。
セイ君もすぐに車に乗り込んで来て、
その時、ドアを開けた事で明るくなった車内で見た、私の血塗れの服を見て、驚いていた。
「え、え、まりあちゃん…血が…」
「お願い。早く車を出して!
早くここから離れて!
早くして!」
必死にそう怒鳴る私に、セイ君は車を慌てて発進させた。
その車の中で、私は全て本当の事を話した。
まりあなんて、本当は居なくて。
あのブログは、全て嘘なんだと。
今夜、私は母親とその彼氏を殺害したのだと。
そうすると、セイ君は。
「なら、警察に突き出されたくなかったら、
お金を用意して。
俺、今、凄く金に困ってて」
「けど、私、そんなにお金持ってない」
「女だから、体でも売れば金なんてすぐに作れるだろ?
警察から、匿ってあげるから。
警察なんかに捕まったら、まりあは人生終わりだぞ?」
そのセイ君の言葉に、それを想像して怖くなった。
自殺するつもりだったけど、
いざ、死なないとと思うと、それも怖くて実行出来そうになくて。