嘘と、恋。
私が持っている財布は、家を出る時に盗った母親の財布。


その中には、三千円くらいしか入ってなくて。


そりゃあ、娘を保険金目当てに殺してでもお金が欲しいよな、って。


そうやって、思い出しながら話していると。

康生さんは、私の顔からマスクを取った。


「てっきり、まりあちゃんは痣を隠したくてマスクしてると思っていたけど、それも俺の勘違いだったみたい」


「ごめんなさい…」


本当に、嘘ばかりだ。



「流石に、今の犯人かもしれない状況で、まりあちゃんの名前や顔はテレビで出てないけど。
未成年だし、その辺り慎重で。
でも、警察はまりあちゃんの顔や本名を知っていて、今も必死で捜してるだろうね。
まりあちゃん、マスクで顔を隠してたんだ?」


「――はい」


なるべく、人の多い所では、俯くようにもしていた。



「私…警察に捕まりたくない。
もし捕まったら、テレビとかで色々言われる。
私が母親から虐待されてた事。
男の人に性的虐待されてた事。
その上、そんな妄想のようなブログを書いて楽しんでいた事だって…。
私、学校では浮いてて、嫌われていて…。
だから、学校の子達にも好き勝手言われて」


そう想像しただけで、それが悔しくて恥ずかしくて、涙が出て来る。



「テレビって、大袈裟な所あるもんね」


「でも、もし他に犯人が居て。
母親やその彼氏を殺した悪い奴に、私はあの夜連れ去られていて…で、殺されたのならば。
それなら、私の事、そうやって根掘り葉掘りテレビで報道されたりしないんじゃないかって」


「そうだろうね。
殺人事件の被害者の事を、そこまでみんな興味持たないもんね。
注目されるのは、犯人で。
その動機や人物像に」


「康生さん、だから、私を殺してくれませんか?
その架空の犯人に、殺された事にする為に」


自分でも、とんでもない事をお願いしていると思う。


だけど、この人になら、殺されても構わない。


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