離婚しましたが、新しい恋が始まりました
プロローグ
「別れてくれ、紬希」
「え?」
「離婚して欲しいんだ」
結婚して、まだ半年だ。どうして突然そんな事を……と思ったら、
「アイツに子供が出来たんだ」と、夫の貴洋が言った。
(アイツ?)
それからは、彼の言葉はまったく頭に入ってこなかった。何分ぐらい?いや、一時間は経っていたのかもしれない。
気がついたらダイニングキッチンから夫の姿は消えていた。
彼の言葉は何も心に残っていないが、あれこれと弁解ばかりしていた気がする。
(これで……自由になれる)
離婚という夫の言葉に、紬希が一番に頭に浮かべたのはそれだけだった。すぐに荷造りして、身の回りの物だけスーツケース一つに詰めて家を出た。家といっても、夫の両親と同居していたから我が家だという実感はない。
「あら、紬希さん。どちらへ?」
玄関を出る時、義母の声が聞こえたが、
「失礼いたします」
とだけ言って、外へ走り出た。
まだ肺に吸い込む空気はひんやりと冷たいが、光の春を迎えたばかり。
見上げる空はきれいに晴れていた。
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