離婚しましたが、新しい恋が始まりました
胸騒ぎ
「あ、あの、ありがとうございました」
乱れた髪を直して、紬希は光宗に頭を下げた。
あまりの息苦しさに眩暈がしてきたのだ。あのまま彼に迫られたら過呼吸になりそうだった。
「いや……たまたま通りかかったら二人が見えたから」
「光宗先生……もしかして、私たちの結婚披露宴に出席してくださっていたんですか?」
「ああ」
「そうでしたか……」
「覚えていなかったのか?」
「すみません。秦野家の出席者はあちらのお義母様が仕切っておられたので」
「だろうな。大勢いたもんな」
「ええ……」
記憶を辿っているのか、紬希は披露宴の日を思い出そうとしているようだ。
「あっ」
「何だ?」
「もしかして、披露宴を中座されたドクターが……光宗先生ですか?」
「思い出したのか?」
自分が紬希の記憶に残っていたと聞いた瞬間、磐の胸に湧き上がった感情を何と表現すればいいのだろう。一瞬で目の前が明るくなった気分だ。
「何となくですが……」
紬希は戸惑った。思い出したのはいいが、彼がかけてくれた言葉は自分からは言いにくい。
(そう……先生は、綺麗だって言ってくれた人だ)
紬希の胸にほんわりとした思い出が蘇ってきた。
緊張していたあの日、たった一つの温かい思い出だった。