きみの瞳に映る空が、永遠に輝きますように


 「ねぇ、星絆?」

 所謂寝落ち電話というやつだ。

 ある時を境に星絆の反応が途絶えた。

 22時に始めた電話だが、既に短針は2時を指していた。

 夢見病の症状が出たとして、寝落ちということに出来るからこの時間帯の電話は私には好都合だ。

 そうは言っても、こういう興奮した時に限って症状は出ないのだけど。


 それから電話を切り、目を閉じた。


 翌日、寝ていたみたい、との文字とごめんねと書かれたスタンプが星絆から送られてきた。

 《大丈夫だよ》

 勉強をしていた手を止めてそう返信すると、再びペンを握った。

 もうすぐ課題が終わる。

 おそらく人生最後の夏課題。

 意味のないはずの課題がこんなにも自分の中で意味を持つとは思わなかった。

 そうはいっても課題の存在に感謝をしているわけではないが。



 《蒼来、ちょっと降りてきてくれるか?》

 残りの問題に手を付けていると、父からメールが届いた。

 私は返信をせずにリビングに向かった。


 「どうだ?」


 父は段ボールを抱えていた。
 
 「ただの段ボールじゃないの?」

 「いいから、開けてみてよ」

 言われるがままに段ボールを手に取る。

 プレゼント包装はされておらず、配達の際の姿のままだ。

 ますます何が入っているのかが分からず恐る恐るカッターを入れた。

 父は私の身体への負担を恐れて、悪戯はしないだろうが、それでも何が入っているか分からないということで、不安なものがあった。

 「どうだ?」

 やっとカッターの出番が終わりようやく開けられるというところなのに、父は早まって聞いてくる。

 どうやら私よりも楽しんでいるようだ。

 正確に言えば私の反応を楽しみにしているのだと思うが。

 父の期待を背負ってどんな反応をすればいいのかを迷いながら開けると、そこには赤と茶色が基調とされている箱が入っていた。

 見た瞬間、それがチョコフォンデュの機械であると理解する。

 それも、鍋型のものではなく、チョコレートファウンテンだった。

 これには喜びよりも驚きが勝っていた。

 「流行っていないのか?」

 あまりに無反応な私に驚いた父は不安そうにそう言った。

 「私は流行に疎いからよく分からないけど流行っているんじゃない?」

 星絆が流行に敏感なこともあってかそれが流行っていないことを知っていた。

 きっと冬に食べるのが有名で、流行と言うより定番なのだろうけど、父の優しさを前に咄嗟に嘘をついた。

 「今度、星絆ちゃんとホームパーティーでもしたらどうだ?」

 名案だろ、とでも言うように父は決め顔でそう言う。

 「うん、ありがとう」 

 先週、星絆の家でホームパーティーをしたばかりだったけど父はそのことを知らない。胸が疼いた。

 「するときは事前に言うんだよ」

 「分かった。じゃあ、部屋戻るね」

 「そうか、あまり無理はするなよ」

 「うん、本当にありがとう」

 父に礼を言うとすぐに部屋に戻った。

 勉強をしたいわけでも体調を崩したわけでもない。

 ただ、少しだけ父との正しい関わり方を見失ってしまっただけ。
 
 この問題は自分から解決できそうもなく、あとは時間に委ねることにした。

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