きみの瞳に映る空が、永遠に輝きますように
「今日も来てくれたんだ。ありがとう」
私の姿を見るや否や透真くんはそう言って微笑んだ。
間違いなく昨日よりは生き生きとしていて、何か良いことがあったように感じさせた。
「これ、好きか分からないけど……」
そう言って恐る恐る押し花アートの入った紙袋を手渡す。
「いいの?」
「うん、開けてみて」
透真くんは私に微笑んで、ありがとう、と言うと中身を取り出してじっと見た。
あまりにも反応がないから、不快な気持ちにさせてしまったのかもしれない、と焦っていると、直後、透真くんが口を開いた。
「俺さ、病室に花は初めてだから本当に幸せだよ。ありがとう」
そう言う透真くんの目は潤んでいるように見えた。
私はどう返していいのか分からず、ただ微笑んで目を逸らした。
感情をすぐに露わにしてくれる透真くんは、それゆえ過度に気を遣う必要がないからか、一緒にいて居心地が良い。
それは勿論同じ病と闘っているという理由もあるからなのだろうが、私の中ではそれと同じくらい関係していると思った。
「俺、明日の検査の結果次第で退院できるみたいなんだ」
「そっか」
生き生きと話す透真くんに私は微笑んで返した。
おめでとう、と言うのはまだ早い気がして言えなかったが、何もないのも冷たい人間のような気がしてその代わりに微笑んだ。
夢見病に治療法はない。
それは不治の病であることを意味する。
今行われているのは対処療法のみで例にもれず透真くんもそうである。
だから、退院といっても治ったわけではない。
あくまでも、日常生活には支障があるものの退院を許可できるまでに落ち着いた、という状態のことなのだ。
それを理解をしたうえで共に喜べるところが透真くんにとっても幸せだったのだろう。
すぐに、無邪気な笑顔で、やっと自由の身だ、と言った。
「もし俺が退院できたら紅葉でも見に行かない?」
「うん」
「良かった」
「そっか、もう秋なんだね」
最近まで夏休みだったはずなのにもう秋を迎えようとしている。
こうやって気づいた時には既に2か月が経過していて、心残りのあるまま人生を終えていくのかと思うと人生は呆気ないし、いよいよ私には時間がないことを自覚する。
他愛のない話から命の終わりの話に結びつけてしまう私は、いっそのこと今自ら命を絶った方が幸せな気さえする。
とはいえ私にはそれを実行に移す度胸がないのだけれど。
「どうかした?」
そんなことを考えていると、透真くんが私の顔色を窺って聞いてきた。
ごめん、と私はすぐに謝ると、透真くんは、俺は大丈夫だから、と言った。
それから面会時間ギリギリまで二人きりで話していたが、私は自分のことでいっぱいで透真くんには気を遣わせてばかりだったような気がする。
反省しながら家路につく。
もう長くはないこの人生をどう生きるべきなのか、私には分からなかった。
今何かをするには遅すぎる。
それ以前に、志半ばで諦めなければならないと思いながら追う夢や目標や幸せは時間の無駄でもある気がする。
とはいえ諦めるにはまだ早すぎる。
私よりも短い余命を宣告された患者は山のようにいるだろうし、一般的に言えば短くても私にはまだ時間がある。生きる理由もある。
そんな状態だから、結局は、流されながら生きよう、という結論に至るのだった。