きみの瞳に映る空が、永遠に輝きますように
父が仕事に行っている間、外の空気が吸いたくて、近くの公園まで足を運んだ。
透真くんと初めて言葉を交わし、手持ち花火をした公園に、だ。
日中ということもあってか、未就学児が多くいて、案の定ブランコは大賑わいだったために、塀に腰を掛けて、一息ついた。
「奇遇だね」
その声に振り返ると、透真くんの姿があった。
パーカーにジーンズを身に付け、眼鏡をかけている。
これぞ、完全なるオフといった格好だ。
「だね」
透真くんは軽々と塀に上って腰を掛ける。
「あのさ、透真くんは星絆と話さないの?寂しいとは思わない?」
ふと、気になっていたことを聞いた。
あれが噂だとしても、火のないところに煙は立たぬ、と言うし、透真くんと星絆がそういう関係を望むのなら、時間があるうちに、とお節介なことを考えてしまった。
隠れたところで会って話しているかもしれないが、どんな形であれ、二人の幸せを望んでいた。
「何だよ、それ。ただ周りが噂しているだけだよ」
「そっか」
それには何も言えなくなる。
透真くんはやはり星絆と交わしたであろう、公の場では話さないという決まりを守っているのだろうか。
仕方のないことだが、隠し事をされると少し不安に思ってしまう。
これこそが透真くんにとっては厄介なのだろうが、これまで助けてもらった恩もあるし、どうにかして力になりたかった。
「俺はさ……」
透真くんが再び話し始めた途端、突然甘い香りに誘われてそれに包まれる。
周囲には色とりどりの花が満開で咲いている。
暗闇から徐々に顔を出して差し込む一筋の光がどんよりとした心も照らした。
そこから少し先にある生い茂る緑の上に身体を預けた。
真上には雲一つない晴天。時折吹き込む風によって今にも鳥になって飛べそうな気がする。
「蒼来?」
その先でそんな声が聞こえる。
少し高い男性の声、聴きなれたあの声。私を癒やすその声。
「待ってよ」
それに応えてみる。
声の主は一向に現れないし、周囲には気配すらもない。
「ねぇ、いるなら出てきてよ」
もう一度叫んでみたところで案の定応えはなく、ただ無駄な体力を消費しただけだったらしい。
ふと、目の前に体温を感じてそこにしがみつく。
気付くと透真くんの背中に乗っていた。
その足は私の自宅に向かっているようだった。
「ありがとう、もう大丈夫だから」
そう言って降りようとするが、いいから乗ってろ、と言って降ろしてくれなかった。
自分の身体を支えるだけで辛い日々もあるだろうに、と申し訳なく思う。
すると、心の声を読んだかのように、俺は大丈夫だから、と彼は言った。
それには、うん、と言って透真くんに身体を預けてえ、私はさっきの出来事を考えた。
おそらくこれは夢だろうと思う。
いや、半々な気もする。
最近は気分を害する夢を見ることが増えた。
代表的なのは今回のような夢の先で一人で彷徨う夢だ。
それを見る度に、死を考えた。
一人で生まれて一人で生きて、最終的には一人で死んでいくのだと思うと、一生孤独な気がして身震いがする。
それは誰もが同じだろうが、それでも恐怖は軽減されなかった。
命の期限が違うが故の現象なのだと思うが。それも、私の場合は迫ってきているという話だ。
「ちょっと休むか?」
異変に気付いたのか、透真くんは気にしてくれたが、時間を置いたところでこの考えが消えることはなかったから、大丈夫、と言って歩き続けてもらった。
「今日はここでいい」
これ以上行くと透真くんが帰宅するのに時間がかかってしまう、というところで無理を言って降ろしてもらった。
「あんまり無理するなよ」
「うん、透真くんもね」
「あぁ、じゃあな」
「またね」
手を振ってお互いに背を向けて歩き出した。
透真くんの背中にもう一度手を振った。
気付かないで受け取ってもらえなくても何でもよかった。
あと何回手を触れるのだろうか、と些細なことの回数も数えてしまう、その不安を紛らわせられるのなら。