きみの瞳に映る空が、永遠に輝きますように
週末、私は早紀さんの運転で隣県の水族館に来ていた。
父は何度も心配して私を止めようとしたが、一度決めたら譲らない私の性格を知っている父は、早紀さんの付き添いがあることを伝えると、しぶしぶ許可を出してくれた。
勿論、無理をしないという条件付きで。
水族館を提案したのは私だ。
こうして胸を躍らせるのはいつ以来だろう。
水族館に行くのも小学生以来だし、透真くんと遠出するのも初めてだったし、この胸の踊りようは止まる気配がなかった。
水族館に着いてからは基本的に透真くんと二人で行動し、少し離れたところで早紀さんが万が一に備えて待機してくれていた。
「海月って可愛いよね」
「そうだな。蒼来は海月が好きなのか?」
「うん。それに、ほとんどのクラゲが死ぬと水に溶けて消えるんだって。神秘的だよね」
そう言いハッとして透真くんに目を向けると、彼は私を心配そうに見つめていた。
「そんな顔しないでよ。ただ魅力的だと思っただけ」
私はそう言って誤魔化した。
別に透真くんを不快な気持ちにさせたくて言ったわけではないし、死を考えたわけでもない。
ただ、ふいに出てしまっただけだ。
水族館と言えば海月は欠かせないほどに小さな頃から好きだったし、この知識も以前から知っていて、私の中では好きな知識の一つだった。
自分の命がもう長くないと分かっても、実際に見れば、海月への想いは変わらないどころか増していった。
でも、今となってはこの言葉が時に他人を傷つけることを知り、それが知らず知らずの内に自分を苦しめるのかもしれないと思った。
きっと、今の私は海月が単純に好きなわけではないのだと思う。
海月のように静かで神秘的な最期を迎えたい。
「なぁ、カフェにでも行こうよ」
水族館を一周した後、透真くんはそう言い、私は小さく返事をした。
お腹がちょうど空いていたから昼食に関しては良かったのだけど、私があの発言をした後だったから、透真くんに気を遣わせてしまったような気がして申し訳ない気持ちにもなった。
お昼時ということもあってか、店内は満席に近い状況で、運良く空いていた席に案内される。
席までの間、同年代から視線を感じ、はたから見るとカップルがデートをしているようにも見える状況だと気づいて、思わず笑みがこぼれた。
席に着き、注文も済ませると、透真くんが口を開いた。
「俺らは同じ病気なんだから、俺の前では言いたいこと全部言いなよ。隠す必要なんてないだろう?」
「ありがとう。そうだよね」
「まぁ、俺が胸張って言えることでもないけどな」
「確かに」
「いや、そこはお世辞でも、そんなことないよ、って言うところだろう?」
「そう?でも、言いたいこと全部言っていいって言ったのは透真くんでしょ」
私がそう言うと、透真くんはクスクスと笑った。
「何かおかしなことでも言った?」
笑うところなどなかったはずだったから、思わず聞き返した。
「蒼来は変わったな、前より明るくなった」
そう言う透真くんの目は娘を見る父のようで私も笑ってしまう。
透真くんは、透真くんの目を見て笑う私に、なんだよ、と言いながら、笑い続けていた。
途中からは何が面白いのか分からなかったが、この時間が長く続けばいいのに、と思わずにはいられなかった。