きみの瞳に映る空が、永遠に輝きますように
帰りは来た道を戻り、駐車場に向かう。
言い合いをしたわけではないのになぜか気まずい。
心当たりがないわけではないが、それがきっかけでこの気まずさが生まれているとしたら、それこそどう空気を換えればいいのかが分からない。
「メイク……、似合っているよ」
そんなことを考えていた矢先、父が口を開いた。
おそらく、この状況に先に耐えられなくなったのだろう。
まだ素の父には戻れていないようだった。
「ありがとう」
やはりまた沈黙が続く。
「恵に似ていたから驚いて何も言えなかったんだ。似合っていないわけじゃないからな」
弁解する父を見て、分かっていたよ、と返す。
「そんなに似ていたの?」
「あぁ、俺が一目ぼれした日の恵だった」
「へぇ、お母さんと付き合うきっかけってお父さんの一目ぼれなんだ」
それを聞いた父は、言ってしまった、と焦りの表情をしてこちらを見た。
「忘れてよ、恥ずかしいから」
それには、はーい、と気持ちのこもっていない返事をする。
照れているであろう父が面白かったし、愛おしかった。
「寄り道してもいいか?」
それに頷き、座り直す。
写真館が楽しかったこともあってか、不思議と父の行きたい場所には信頼できた。
住宅街をしばらく行くと、大きな川が流れていた。
緑の生い茂る河川敷の上で止まり、父はそこに腰を掛けた。
自然の優しい匂いがする。
それに包まれて、緊張が解けたことでどっと押し寄せた疲労が徐々に癒えていく。
時折吹き込む風を目を瞑って堪能する。
やはりこうして外に出て自然を感じることが変わらない幸せだった。
「今度はどこに行きたい?」
「どこでもいいよ、またお父さんのおすすめの場所がいいかな」
「なんだそれ」
そう言って笑う父につられて自然に笑みが零れた。
離れて暮らしてきた期間を埋めるように、過去にひとつひとつ作ってきた思い出をこれからも作り続けていきたいと思った。
その時間が私に残されているとは限らないけど。
「ねぇ……」
急に身体に力が入らなくなる。それどころか、かつて味わったことのない、全身が押さえつけられているような感覚にも陥った。
どうした、と言って父は私の手を握った。
呼吸は身体全体から力が抜けていく。
車椅子からはずれ落ち、地面に座り込む形になる。
「大丈夫だ、大丈夫だから」
父は救急車を呼びながら私に声を掛け続けた。
力の抜けきった足は自分の足であることすら忘れるほどに感覚はなく、微動だにしなかった。
この状態になったことがなかったからこそ、対処法が分からない。
それだけではなく、ここまでくれば、動け、と指令を出そうとも思わなかった。
寧ろ、よく頑張った、とさえ思った。
余命宣告を受けてから、まだ二か月は経過していないけれど、夢見病でありながらもここまで日常を謳歌することができたのはこの足が、身体が頑張り続けてくれたおかげだ。
そう思った私は運命に身を任せた。