きみの瞳に映る空が、永遠に輝きますように
彼の最期を看取った後、私は看護師さんにお願いをして屋上に送ってもらった。
既に泣く気力も失われていたし、透真くんの家族よりも泣いてはいけないと思い、涙を拭う。
きっと、望んだ夢を見なければあと数時間を透真くんは生きていただろうし、私も長く生きられただろうと思う。
けれど、もしそうしていたら最期に透真くんが微笑むことはなかっただろう。
それに、透真くんもこのことで私がくよくよしているのを良くは思わないはずだ。
そう思った私は、この決断に迷いは無かった、と受け入れて、大きく息を吸った。
吸う息が冷えて喉が痛い。
「おはよう」
ふと聞きなれた声がして振り返ると、そこには早紀さんの姿があった。
目頭は真っ赤で目も充血している。
「透真は蒼来ちゃんに出会ってから明るくなったの。本当にありがとう」
「いえ、こちらこそお世話になりました。昨日は取り乱してしまいすみません」
「大丈夫だよ、大切な人の死を前にしたら誰だってそうなるから」
容姿も声も透真くんの面影がある早紀さんに優しくされて堪えていたものが全て溢れてしまいそうになる。
もう透真くんに会えないという事実が弱った心に深く突き刺さる。
私は透真くんのお通夜にもお葬式にも参列ができない。
でも、その方がずっと良かったのかもしれない。
透真くんの死を悲しむ人を見ることで刻々と迫る私の最期や将来を想像するともっと死が怖くなってしまう。
あの世が透真くんに再会できる幸せ時な場所であり続けて欲しかった。
報われなかった人生が、恋が、いつでも望んだ夢が見られる世界であってほしい。
そう思わなければ死の恐怖から私が私でなくなってしまうような気がした。
「これ、透真が書いていたみたいなんだ」
そう言って鞄から取り出したのは桃色一色の封筒で表面の中央に、蒼来へ、と書かれてあるものだった。
私はそれを受け取り、視線を下に向ける。
早紀さんは忙しいようで、用事を済ませると颯爽と屋上を後にした。
この無駄に広い空間に一人になった私は、手紙を読もうと思ったが、どうも読む気になれず、透真くんの書いた私の名前に目をやることしかできなかった。
封筒には一粒、そしてまた一粒、と大粒の水滴が落ちた。
涙で滲んで見えなくなる前に、一度手紙に目を通しておくことにした。
透真くんが必死の思いで残してくれた言葉を。