お館様の番選び
…あの後、目を覚ましたあかりはあの夜のことは、何も覚えていないようだと聞いた。

良かった。僕の力でもなんとかなった……ほっとした。

そして僕の側近になるという話をあかりも受け入れてくれたとのことだった。

あれから数週間が過ぎ、僕の傷もほとんど治っていた。

あかりがこの家に入るための段取りも順調に進んでいた。

そして今日がその日…。

あかりを出迎えるため僕は玄関にいる。すごく緊張していた。

久しぶりに会ったあかりのいつも通りの様子にほっとした。

「あかり。早く入って。」

促すと、緊張しているのか照れくさそうにニコッとしながらペコッと一礼し、上がってきた。

あぁ。あかりから番の良い香りがする。

「お邪魔します。」と発する声も耳に心地よい。

あかりの姿に目が奪われる。

番の存在感に縛られる。まずい……。

無理矢理、気持ちを反らし、「こちらにどうぞ。」と父の待つ部屋へと二人を案内する。

廊下を進みながら、目はどうしてもあかりのほうに行ってしまう。

僕の視線に気づいたあかりに「なによ。」と問われ、「…いや、何でもない。」と言葉を交わす。

……何かがおかしい。

僕があかりを番だと分かった時と比べて今のあかりの反応はあまりにも普段通り過ぎる。

明かりが緊張しているのは伝わってくる。

それは今日が仕事初日のせいだからだろう。

……でもなぜだ。……もしかして……。まさか……?
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