お館様の番選び
よし。声は掛けた。後は叩き起こすだけだと、振り上げた両手を布団の膨らみに向かって振り下ろした。

…あれ?なにがどうしてこうなった。

気が付くと、ベッドに寝転んでいて、わたしの背中には朧の両手が回っている。

朧の方に目を向けると、朧は眠ったままで、まだすーすーと寝息を立てていた。

「ちょっ…と。お…朧…あんた…起きてんでしょ…。」

急いで身体を起こそうとしたが、朧は寒いのか両腕に力を入れて余計にぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。くっ苦しい。

朧の顔が近い。寝息が顔に掛かるぐらい近い。

…久しぶりにゆっくり朧の顔を観察出来た。

艶やかな黒髪はさらりと朧の額を流れ、その下には形のいい眉毛、閉じた切れ長の目には長い睫毛が生えていた。

通った鼻筋、薄いが妖艶な唇。その唇は僅かに開いていて……うわー。朧、綺麗だなー。

こんなにまじまじと朧の顔を眺めたことがなかったけど、やっぱりお館様の一族なんだ。

まだまだ幼い子供の顔だけどこれが成長すると……末恐ろしい………。

なんて惚けていると、「ん……ん?」と朧の声がした。
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