うちの御曹司の趣味は変わってる~エリートコースはあちらですよ~
1 予定は未定
うちの御曹司の趣味は変わってる。
「僕が一番落ち着くのは、家で明日、どんなお弁当を作るか考えてるときなんですが」
藤子がふとそう思ったのは、昼休みに秘書室で何気なく彼が話しかけてきたときだった。
そのとき、藤子は席で自分のお弁当を食べ終わったところだった。社長室から当社の御曹司である一条薫、通称薫の君が出てきたので、何か言いつけられるかと席を立ちかけていた。
藤子の顔を見るなりいきなり一言、藤子はその言葉の意図を考えかけたが、生来のずぼらさでさらっと流した。
「お弁当をお持ちなのは気づいていましたが」
「そう。毎日藤子さんのお弁当を盗み見して参考にしているんです」
薫は空になった藤子のお弁当を残念そうに見下ろしてから、綺麗な切れ長の瞳でじっと藤子の目を見た。
「それで、藤子さんが一番落ち着くのはどういうときでしょう?」
「何も考えずにぼんやりしてるときですね」
「素敵です。参考にならないですが」
差し当たって何の参考にしているのだろう。藤子は澄んだ目を向けて首をかしげたが、職務に忠実に切り返した。
「専務、お戻りはいつですか?」
「出て行ってほしいんですね……」
薫はちょっと傷ついたように秀麗な眉を寄せると、多少投げやりに言った。
「いろいろ準備があって。いいですよ、藤子さんには教えてあげないです」
午後からの会議には戻りますよと言って、薫はコートをさっと羽織って出て行った。
さて上司も不在になったことだし、昼休みが終わるまで昼寝でもしようか。藤子は既におねむになっている目を閉じかけたが、ふとカレンダーを見て気づいた。
明日は土曜日、藤子の常として極限のぼんやり時間が彼女を待っている……はずだったが、実は一か月前から予定が入っている。
ーー僕とお見合いをしてください。
薫が一月前に頭を下げて言い出したことは実に変わった冗談で、藤子は仕事の流れで引き受けてしまったものの、本気で手帳に書いていいか迷っていた。
うちの御曹司、変わってるからなぁ。
藤子は遠い目をしてうなったが、眠気の方が勝った。
「ま、いっか……」
顔を伏せたり枕を使うなんて面倒な藤子は、座ったまますやすやと昼寝を始めたのだった。
「僕が一番落ち着くのは、家で明日、どんなお弁当を作るか考えてるときなんですが」
藤子がふとそう思ったのは、昼休みに秘書室で何気なく彼が話しかけてきたときだった。
そのとき、藤子は席で自分のお弁当を食べ終わったところだった。社長室から当社の御曹司である一条薫、通称薫の君が出てきたので、何か言いつけられるかと席を立ちかけていた。
藤子の顔を見るなりいきなり一言、藤子はその言葉の意図を考えかけたが、生来のずぼらさでさらっと流した。
「お弁当をお持ちなのは気づいていましたが」
「そう。毎日藤子さんのお弁当を盗み見して参考にしているんです」
薫は空になった藤子のお弁当を残念そうに見下ろしてから、綺麗な切れ長の瞳でじっと藤子の目を見た。
「それで、藤子さんが一番落ち着くのはどういうときでしょう?」
「何も考えずにぼんやりしてるときですね」
「素敵です。参考にならないですが」
差し当たって何の参考にしているのだろう。藤子は澄んだ目を向けて首をかしげたが、職務に忠実に切り返した。
「専務、お戻りはいつですか?」
「出て行ってほしいんですね……」
薫はちょっと傷ついたように秀麗な眉を寄せると、多少投げやりに言った。
「いろいろ準備があって。いいですよ、藤子さんには教えてあげないです」
午後からの会議には戻りますよと言って、薫はコートをさっと羽織って出て行った。
さて上司も不在になったことだし、昼休みが終わるまで昼寝でもしようか。藤子は既におねむになっている目を閉じかけたが、ふとカレンダーを見て気づいた。
明日は土曜日、藤子の常として極限のぼんやり時間が彼女を待っている……はずだったが、実は一か月前から予定が入っている。
ーー僕とお見合いをしてください。
薫が一月前に頭を下げて言い出したことは実に変わった冗談で、藤子は仕事の流れで引き受けてしまったものの、本気で手帳に書いていいか迷っていた。
うちの御曹司、変わってるからなぁ。
藤子は遠い目をしてうなったが、眠気の方が勝った。
「ま、いっか……」
顔を伏せたり枕を使うなんて面倒な藤子は、座ったまますやすやと昼寝を始めたのだった。
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