うちの御曹司の趣味は変わってる~エリートコースはあちらですよ~

2 お見合いってこういうものだっけ

 お見合いってこういうものだっけ。
「俺は反対なんだ。藤子はもっと条件のいいところに紹介する予定だったんだ」
 カポーンといい竹の音が響く料亭の一角、仲人たる一条隼人が開口一番不機嫌に言った。
「兄さん、のっけから役目を放棄しないでください。僕を売り込むのが今日の兄さんの仕事ですよ」
「藤子はせっかくここまで俺が育てたのに……」
 隼人が恨めしそうに言うのもあながち間違っていない。藤子が一条商事に入社したときから、一人前の秘書になるまで育て上げてくれたのは薫の従兄、現在副社長の隼人だった。陰のある表情にコアなファンがついているのに、ちょっと思い込みが激しいところが残念な美男子だった。
 彼の細かさに多少引いていた藤子としては、彼がやはりお見合いで知り合ったご令嬢に早々にひとめぼれして結婚してくれたことにほっとしたのは内緒だった。
 藤子は隼人に教わった綺麗なお辞儀をして言った。
「大変お世話になりました」
「俺はまだ認めてない。結婚はお互いに少しずつ知り合ってから、慎重に」
 お見合いして二週間後に結婚した男からの全然説得力のない言葉だったが、藤子はたまに穴だらけな元上司のそういうところは好きだった。
「改めまして。今日は来てくださってありがとう、藤子さん」
 藤子の向かいの席、二十代とは思えない精悍なスーツ姿の薫が自分から口火を切る。
「一条商事の専務をしております、一条薫です。一緒にいて落ち着く女性を探していました」
 薫は女子社員たちにとろけるようと言われる黒く濡れた目で藤子を見やる。
「来てくださったということは、僕と結婚を前提にお付き合いしていただけるんですね?」
「……正直なところ」
 藤子は入社当時隼人に、そんなまっすぐ人を見るな、大人は本音を隠すもんだと警告された淡く素直な目で見返す。
「断り方を知らなくてここまで来てしまったんです。すみません」
「おっと」
 薫は驚いた様子はなく、にこっと笑って言葉を続けた。
「困りました。僕はこのお話、進めていきたいんです。そうだな、お互いによく知り合う時間がほしい」
 薫はちらっと隼人を見やって、その期間を口にする。
「二週間」
 それを聞いたときの感覚は、のんびりやの藤子にはあっという間のように思えた。
「二週間、僕の家に来てみませんか? お断りするのはその後でも遅くはないでしょう?」
 突然の御曹司宅へのお誘い、古きと今どきが頭の中でミックスして、藤子はぽかんとした。
 とはいえ藤子には急いで結婚する理由がないように、急いでお断りする理由もない。
「身の安全を確保してからでないと」
「僕からは指一本触れないとお約束します」
 カポーンといい竹の音が聞こえる。
「……そういうことなら」
 藤子はたまに素直すぎると言われる決断の速さで言う。
「よかです」
 ま、いっか。生来の楽観マインドで、藤子はうなずいたのだった。
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