ただ、まっすぐ君を想う。

「凰貴くん!
これからパパと神社行くんだけど
雛いるからどーぞ…
凰貴くん帰って来て
お父さんとお母さん喜んでたでしょ」



玄関からママの声がした



凰ちゃん来たのかな?



どーしよ…

コタツの中に隠れるわけにもいかないし



「雛は行かなくていいの?」



後ろから声がして

隠れる前に

凰ちゃんが入って来た



「ん、うん…昨日行ったから…」



昨日…



思い出したら

また

ドキドキした



凰ちゃんの顔が見れなくて

凰ちゃんに背を向けたままコタツに入った



「なに見てんの?」



適当に開いたスマホ



「ん、お正月の映画特集でも見ようかな…
無料動画いっぱい出てる
凰ちゃんなんかオススメある?」



「んー…そーだな…」



凰ちゃんが私の後ろからスマホをのぞき込んだ



背中に凰ちゃんの温もりが当たる



凰ちゃんが私の後ろに座った



凰ちゃんが

私を抱きかかえる態勢でコタツに入る



いつもそうしてたから

特に違和感ない



凰ちゃんは

きっと

何も意識してない



私は…



背中から

全身が熱くなってく



「あ、コレは?結構面白かった」



凰ちゃんの手が後ろから伸びて

スマホを触った



私の背中と

凰ちゃんの胸が

更に密着する



私の指と

凰ちゃんの指が

微かに触れた



指先が震える



気付かれないようにしなきゃ…



「じゃあ、コレにする」



凰ちゃんが

私を抱きかかえたまま

動画が再生された



この態勢で見るんだ



ぜんぜん内容が入ってこない



せっかくオススメしてもらったけど

どの映画でもよかった



ホントに映画が見たいわけでもなかったから



背中から

ドク…ドク…ドク…

血液が走る音がする



私のお腹辺りにある

凰ちゃんの手が



いつもの事だったのに

今日はなんか

ムズムズする



首元にも凰ちゃんの温もりを感じる





大きくなったんだ



いつも凰ちゃんを自分専用のソファーみたいに

身体を委ねてたな…



あの時は

緊張とか

動揺とか

しなかった



ただ

凰ちゃんは

私の王子様だった



ただ

大好きだった



その気持ちが

少しずつ変化していくのは

大人になってきてるからかな?



凰ちゃん

ドキドキする



目の前に流れる動画より

後ろから伝わる凰ちゃんの熱の方が

気になった



私の首元で凰ちゃんが動いた



髪の隙間から

凰ちゃんの体温が首筋に触れた



鼻かな?

それとも

唇?



昨日のことが頭を過ぎって

もっとドキドキした



胸の下辺り

凰ちゃんの手が触れてるところが

キューン…てなる



パパもママもお姉ちゃんもいない



凰ちゃんとふたりきり



凰ちゃんは

映画に集中してるはずなのに



なに?



首筋がずっとくすぐったい

耳の後ろがムズムズする



「凰ちゃん…?」



このまま私が

凰ちゃんの方に顔を向けたら…



「雛、いい匂いする」



凰ちゃんの吐息が首筋にかかる



今日は

香水もつけてないのに…



「今日は、ポテト食べてないよ」



「うん…ポテトじゃない」



「あ、さっきお餅食べた
凰ちゃんも食べた?」



ドキドキしながら話した



「うん、1個だけ食べた」



「私も1個…で、我慢した」



「なに?また太るとか気にしてるの?」



「うん、一応ね…」



「好きな人の匂いって、落ち着くね…」



凰ちゃんの

その言葉に

返事できなかった



凰ちゃんの好きな人って?



私は

好きな人に包まれてるのに

嬉しいはずなのに



身体中が

熱をもって



動画は一切頭に入ってこなかった



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