溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
***

「俺の仕事が気になる?」

 日和美(ひなみ)が仕事のことを問うた途端、信武(しのぶ)がニヤリと笑った。

 何だかそれがすっごく不吉に思えて、日和美は慌てて視線をそらせる。

「あっ、あのっ。べっ、別に今すぐ教えて頂かなくても大丈夫……【かも知れません】」

「かも知れませんって何だよ」

 自分のことなのに他人事(ひとごと)のように言い募ったら、目を(すが)められて珍獣でも見るような視線を送られて。

 そのままククッと楽し気に笑われてしまった。

「――まあとりあえず無職ってわけじゃねぇから安心しろ。治療費も保険証なしだったから結構な金額だっただろ。全額きっちり返してやるから診療明細書を俺に渡せ。あと……アレだ。立て替えてもらった服代とかもキッチリ払うからちゃんと請求しろ」

 ――い、いえっ。治療費の実費分はともかく全額は要らないですし、服代だって要りません……!

 そう言い募ろうとしたら、まるで反論は許さないとでも言うように腰に回された腕を狭められて、日和美は思わず「ひゃっ」と間抜けな悲鳴を上げる羽目になる。

「……ホント色気ねぇな」

 言葉裏腹。

 チッと舌打ちをしながらも、スルリとあごを捕らえられて今にも唇を奪われそうに顔を近付けられて。

 日和美は懸命に身体を突っ張ってそれを阻止したのだけれど。
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