溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
 言えば言うほど信武(しのぶ)の目が(すが)められて不穏(ふおん)な空気を漂わせているのに気付けないまま、日和美(ひなみ)はどんどん墓穴を掘り進める。

「――お前さぁ、俺が強引な感じで迫るのがダメって口振りだけど……不破(ふわ)だった頃の俺に対する日和美の態度んが、よっぽど今の俺以上じゃねぇか」

 日和美の伝え方が悪かったんだろうか。
 もちろん自分は不破に対して全然強引なんかじゃなかったし、絶対に信武以上の押しの強さだってなかったのに。

 なのに――。

「結局んトコ、不破だったころの俺だって据え膳食わぬは男の恥って感じでお前のこと布団に引きずり込んだわけだろ? ――今の俺とどう違うのか、俺が納得いくようちゃんと説明してみ?」

「ぜっ、全然違うもんっ!」

「だからそこ、具体的に」

 思わず否定してみたけれど、すさかず信武に先を促されて。
 日和美はどう口を開いてもドツボにはまる気がして、うまく説明できないもどかしさにグッと言葉に詰まった。


「ほらみろ。結局説明出来ねぇじゃんよ。――で、何だっけ? 〝不破さんは付き合ってもいない女の子にそういう下世話なことをする人じゃありません!〟だっけか」

 オマケにこの記憶力の良さ。

 日和美は、自分が大きくて強い女郎蜘蛛(じょろうぐも)の仕掛けた(わな)に絡めとられた非力な羽虫にでもなったような気持ちでオロオロと信武を見上げる。

「じゃあさ――」
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