溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
信武(しのぶ)さん?」

 そのことが不思議で、日和美(ひなみ)はキョトンと小首を傾げた。

「何でお顔を背けるのですかっ」

「……いや、だってお前……それ、反則だろ」

 そっぽを向いたまま信武が言うから。日和美はますますわけが分からなくて混乱する。

「何がですか?」

 一歩ソファの方に詰め寄ってそう問いかけたら、突然立ち上がった信武にギュウッと抱き締められた。

「好きな女に〝あなたのために色々気ぃ遣いました〟みたいに言われてグッと来ねぇ男なんざおらんだろっ」

 切な気に耳元でそんな風に落とされて、日和美の手からラグの上に本が落ちる。

 不自然に開いた格好で伏せるようにして落ちたその本の表には、『ある茶葉店店主の淫らな劣情』と書かれていた。

 立神(たつがみ)信武(しのぶ)フリークの多賀谷(たがや)先輩曰く、エロスと純文学と、茶葉に対する雑学が入り乱れたこの作品こそ、立神作品の真髄らしい。

 日和美的には『陽だまりの硝子玉(びぃどろ)』や『犬を飼う』の方が〝買いやすいタイトル〟で気になったのだけれど、ふとそこで信武の言葉を思い出した。

 ――「今度俺のコレクション見せてやろーか? 【仕事柄】お前のTL本なんて可愛く見えるよーなえげつねぇのだってゴロゴロしてっぞ?」

 あの時、日和美は【どんなお仕事をしていたら】、日和美のTL本が可愛く見えるんだろう?と思った。

 多賀谷が勧めてくれた本のタイトルは、そこに触れられるものな気がしたから。

 日和美は「よし!」と決意してコレをレジに持って行ったのだ。
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